咳や痰の原因の一つに、アレルギー性の気管支炎やウイルスや細菌が身体に侵入し感染することによる喉や鼻、気管支の炎症があります。長引く咳は肺を痛め体力を奪います。また、眠れないくらい激しい咳で、寝不足になると免疫調整力が落ちたり、体力が低下してしまいます。症状が酷い場合は病院を受診し、検査を行いましょう。原因があり、治療に反応する咳もありますので、必要な治療があればそれを優先しましょう。しかし明らかな原因がわからず、なかなか改善改善しないしつこい咳や痰などが、漢方薬で容易に改善してしまう例も少なくありません。咳や痰に関する漢方薬は多種類存在し、体質や体力、咳や痰の状態などによって選択する必要があることから、専門家に相談することをおすすめします。

 

西洋医学的な咳の原因で多いもの

咳が長引く原因で多いのは、風邪などの感染後に咳だけ残る、というものです。西洋薬では、基本的には咳止めくらいしか対処方法はありません。他にも原因はあります。咳ぜんそくと呼ばれる喘息の一部では、乾いた咳だけが出てくることがあります。気管支を広げる薬を使用することで、症状の改善が見ることが診断になります。あとは、蓄膿や逆流性食道炎などです。これらは、寝ている間に気管に異物が入り込んでいっていき、咳が持続します。

 

咳・たんの漢方薬での考え方

まず肺の特性を整理してみましょう。

肺の働きは、宣発作用と粛降作用の2つにわけられます。

①宣発作用(発散性、昇性)呼気、発汗、体温調節、etc.
「宣発」とは「広く行き渡らせる」とか「発散させる」という意味で、身体中に肺気がスムーズに散らばり、通じることを指します。

宣発の生理作用は、次の3つです。

1)肺の気化によって体内の濁気を排出すること
2)脾によって運ばれた津液や水穀の精微を全身に散布して皮毛まで運ぶこと
3)衛気を宣発する作用により、そう理(毛穴)の開閉を調節し、代謝産物である津液を汗として体外に排出すること

 

②粛降作用(収斂性、降性)吸気、納気、津液の配布
「粛降」とはきれいにする、下降するの意味で、肺気が腎に降りたり、痰を吐き出して呼吸道をきれいにする作用のことを指します。

粛降の生理作用は次の3つです。

1)自然界の清気を吸入すること。
2)肺が呼吸した清気と脾が運んできた津液や水穀の精微を下に向けて散布すること。
3)肺や呼吸道の異物を吐き出して、呼吸器を清潔にすること。

 

肺の特徴

①五臓の中で唯一意識的コントロールが可能な場所
②非常に繊細、脆弱で過度の寒熱燥湿で容易に傷害される

外にさらされ、脆弱で障害されやすいという特徴があります。これにより宣発作用が失われると呼気ができなかったり、胸悶、咳喘、鼻づまり、くしゃみ、汗が出ないなどの症状が出現します。肺の粛降作用が失われると呼吸が速くなったり浅くなったりして、喀痰や喀血をします。

 

肺の宣発と粛降の生理作用は互いに影響しあいます。宣発が正常でないと粛降も悪くなり、粛降が悪いと宣発にも影響します。

 

どちらも正常ならば気道は通り、規則的な呼吸で、身体のガス交換も正常に行われます。

 

 

咳・たんの常用処方

虚実による分類

【肺寒の咳】

1)風寒束肺 太陽病肺寒(カゼの始めから、発熱悪寒、筋痛頭痛と共に、激しい咳):麻黄湯

2)表寒裏水(何時もカゼをひくとゼコゼコ、ゴロゴロ咳と痰):小青竜湯

3)肺寒支飲(だいたい身体は弱く冷え症、咳と痰が何時までも続く):苓甘姜味辛夏仁湯

4)陽虚肺寒(老人あるいは虚弱、咳き込みは無いが寒がる):麻黄附子細辛湯

【肺熱の咳】

5)風熱犯肺(カゼの始めから咳き込みが激しい、汗をかく):麻杏甘石湯

6)肺熱挾痰(カゼを引いて暫くして黄色い痰と激しい咳):五虎湯

7)痰熱互結(カゼが長引き咳痰が止まらない、咳すると胸が痛い):柴陥湯

8)肺熱虚実錯雑(痰が喉にからんで咳が続く、痰が出ると少し楽になる):清肺湯

【陰虚肺熱】

9)肺陰虚熱(何時までも咳き込みが治癒しない、特に夜ひどい):滋陰降火湯

10)大逆上氣(突然突き上げるような激しい咳、口が渇き咽が痛い):麦門冬湯

【肝気鬱結(気滞)】

11)肝鬱気滞(喘息かな?カゼでもないのに激しい咳、冷えると悪いようだ):神秘湯

12)少陽病遷延(カゼの後熱も下がったが咳と痰が何時までも続く):柴朴湯

13)カゼの後、咳痰で眠れない:竹茹温胆湯

 

長引く咳の漢方薬と、使い分け

1)太陽病の傷寒には麻黄湯(出典:傷寒論)

★方意

太陽病傷寒の主方。寒邪が太陽経脈を侵し、体表の腠理を閉塞させ、栄衛が拘束される結果、太陽病の一般症状に加えて、発熱、悪風、無汗、身疼、頭痛、骨節疼痛、喘の麻黄八証といわれる症状を呈す。

★弁証のポイント

①強い発熱悪寒
③筋肉痛や関節痛
③咳、痰が顕著

という特徴のある咳の方には、麻黄湯が向いています。

麻黄湯

 

2)表証に痰飲証が加わる時は小青竜湯(出典:傷寒論・金匱要略)

★方意

痰飲証に太陽傷寒を合併している者である。即ち水分過剰の体質で、でいつも胃や肺に水飮が溜まっている人が太陽傷寒に外感すると、傷寒の証候の他に痰飲が停滞するので、肺では喘咳、胃では嘔気、上焦では噎、腸では下痢、膀胱では尿不利や少腹満などといった多彩な客証が太陽傷寒証と共に現われる。

★弁証のポイント

①発熱悪寒を伴う咳
②無汗、汗無し
③水様鼻汁、喘咳、胃内停水:動いた時や胃の辺りを叩いた時などに、胃の所でチャプチャプと音がするような状態を、漢方では胃内停水(いないていすい)といい、これは胃に余分な水分が溜まってしまった状態。

という方には、小青竜湯(ショウセイリュウトウ)が向いています。

 

3)苓甘姜味辛夏仁湯(出典:金匱要略)

★方意

寒痰による喘咳や喀痰あるいは流沸(薄い鼻水)のある者に用いる。小青竜湯より麻黄、桂枝、芍薬を去り、茯苓と杏仁を加えた処方で、小青竜湯証で胃腸の弱い者、及び表証のない者に用いる。脈は沈弦。舌は湿潤淡泊。滑らかな舌苔。

★弁証のポイント

①虚寒証:肝虚寒証の体質者は、激しい運動で汗をかくと、それで帰って体を冷やし、体調が悪化します。(そのため、激しい運動や著しく汗をかくサウナなどよりも、ヨガや太極拳のようなじんわりと体を動かす運動が適しています。)そういう体質の方。

②薄い痰と咳、鼻水

③脾虚、胃内停水:脾虚の人にありがちな症状は、胃腸が弱く少食、疲れやすい、立ちくらみ、朝がとても苦手、手足がだるい、風邪をひきやすい、下痢しやすい、疲れると痔がでやすい、ちょっと動いても汗がでる、息切れしやすいなど。

そういった方には、苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)が適しています。

 

4)陰証(寒)に発すカゼには麻黄附子細辛湯(出典:傷寒論)

★方意

陽虚冷え症体質の者が風寒の邪に外感して、太陽病と少陰病を同時に発症する表裏両寒証である。悪寒が強く四肢が冷え、元気が無く不活発で、倦怠感や眠気などを訴える。

★弁証のポイント

①悪寒が顕著、手足の冷えがある方
②脉は沈微、舌は淡白:漢方医による脈診と舌診の診断用語で、脈はかすかで触れにくい脈で、精気がない状態。舌は赤みが抜けて白い状態。
③腹部軟弱、不活発:腹部全体が軟弱で少し腹壁を押さえるだけで背骨前面に触れるような軟弱さがある人。全身の心身機能が低下した状態。

そういった方には、麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)が適しています。

 

 

5)肺熱化証の咳には麻杏甘石湯(出典:傷寒論)

★方意

麻黄剤の範疇に属すが、肺熱の咳嗽や呼吸困難を治す。

表邪が肺に侵入して肺熱と化して咳嗽や喘息を生じ、肺熱が津液を逐い出すので、汗が出て喘す。

★弁証のポイント

①痰は少なく激しい咳:痰はあまり出ないが、咳が激しい状態。喘息で乾いた咳が出る場合。
②発汗、自汗:暑くもないのに少し動いただけで汗をかく、何もしなくても汗が出やすいという状態を、自汗という。
③体表は無熱:熱などの症状がない状態。

・・・②&③:肺の実熱

そういった方には、麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)が適しています。

 

 

6)五虎湯(出典:万病回春)

★方意

麻杏甘石湯に消炎、鎮咳作用のある桑白皮を加えた薬方で、証は麻杏甘石湯とほとんど同じである。痰飲をさばく働きが加わり、また胃腸障害はより少なくなる。病位は太陽病の変証あるいは湿病気分証。肺湿熱の咳。脉は滑数。舌は乾燥、白黄苔あり。

★弁証のポイント

①咳嗽、喘鳴、呼吸困難:咳、ぜんそく、呼吸困難
②痰は少ない(肺熱)
③熱は少ないが口渇(裏熱):熱の症状はあまりないが、口が渇く。

口が乾き、痰は少なく、咳やゼイゼイが出る場合には、五虎湯(ゴコトウ)が適しています。

 

 

7)胸痛と咳には柴陥湯(出典:本朝経験方)

★方意

小陥胸湯と小柴胡湯の合方である。熱と痰飲が心下に結聚して痛む者を治す。病位は少陽病。裏熱虚証。脉は弦、あるいは滑数。舌は乾燥、厚い白苔、あるいは黄苔。

★弁証のポイント

①胸痛を伴う咳痰:胸が痛むほどの咳と痰がでる。
②心下痞鞕、圧痛:自覚的に心下部に痞(つか)える感じがして、上腹部、特に心下部の腹筋が緊張して硬く、指先で圧迫すると抵抗感のある症状。
③胸脇苦満、往来寒熱:胸脇苦満は漢方の腹診で、みぞおちから胸のわきにかけて充満した感じで苦しく、肋骨(ろっこつ)の下を押すと抵抗がある症状。往来寒熱は、悪寒と熱とが交互に出没すること。さむけがしてさむけがやむと熱が出て、熱が下がって、またさむけが出る。

というような、強い咳と使え感のある場合、陥湯(サンカントウ)が適しています。

 

8)痰がからむ咳には清肺湯(出典:万病回春)

★方意

肺熱が持続した結果、津液が不足し、気道が乾燥し、喀痰が乾燥して喀出されに難くなって、病人は痰を喀出するために咳き込み苦しがる。同時に痰が気道に貼り付いたように感じる。

★弁証のポイント

①激しい咳
②粘っこい痰
③痰をだすと楽になる

という方には清肺湯(セイハイトウ)が適しています。

 

9)肺陰虚の主方は滋陰降火湯(出典:万病回春)

★方意
肺の陰虚火旺証を治す。発熱、欬嗽、吐痰、喘息、盗汗、口乾などの症状有る者を主治する。腎陰が不足し肺の津液も不足する。脉は沈細数。舌は乾燥淡紅、無苔。腹証は皮膚が枯燥する他特に無い。

★弁証のポイント

①頑固な咳と切れにくい痰
②皮膚は乾燥し、便秘傾向
③時に乾性ラ音:ラ音という言葉は慣習的に呼吸音の異常全体を表す広義の意味で使用されている。

という方には、滋陰降火湯(ジインコウカトウ)が適しています。

力のない乾いた咳が続き、痰があるのに喉に絡んで出にくいタイプに滋陰降火湯はおすすめです。身体を潤す機能が失われたため、皮膚や粘膜が乾燥したり、口が乾くなど乾燥の症状が起こり、また身体を冷やす力も失われているため、身体に熱がこもることで痰が粘り、切れが悪くなります。乾燥しがちな高齢者の咳、またドライアイ症状にも使われます。構成生薬の麦門冬には、身体の熱を冷ます「清熱」作用と、熱のあるものの痰を除去する「化痰」作用、更に気道を潤す「滋潤」作用があります。同じ咳症状で使われる漢方薬に「麦門冬湯」がありますが、麦門冬湯タイプより、更に体力が低下し慢性化した咳や痰の症状に、滋陰降火湯は適しています。

 

 

10)大逆上気咽喉不利には麦門冬湯(出典:金匱要略)

★方意

肺と胃の津液が不足して、陰虚火旺となり、虚火が咽喉や気管支を刺激するために、乾燥性の咽喉痛や激しい反射性咳嗽を生じるものである。脉は細数、舌は紅で乾燥し無苔。

★弁証のポイント

①反射性乾咳
②咽がヒリヒリする(大逆上氣、咽喉不利)
③咽乾口燥:咽喉(のど)粘膜の乾燥と、口の中が乾く

という方には、麦門冬湯(バクモンドウトウ)が適しています。

麦門冬湯は、身体を潤す力が低下しているタイプに適しています。「気・血・水」でいうと「水」に不調がある場合です。構成生薬の麦門冬は、身体に潤いを補うとともに、潤いが少ないことで火照ってしまった身体の熱を冷まします。また、粳米には潤いを補う作用のほか、気を補う作用もあるため、水の巡りをよくします。乾燥したタイプの咳や気管支炎、痰が切れにくいなど呼吸器の症状に使われることの多い漢方薬です。

 

11)頑固な喘咳には神秘湯(出典:外台秘要)

★方意

外感病或は内傷で肝の疏泄作用が失調して肝気鬱結が生じた結果、肝気と肺気が上逆して咳・喘息或は起坐呼吸を呈するものである。柴朴湯証よりも咳喘が著しいので、麻黄・杏仁を用いて宣散を助ける。

★弁証のポイント

①咳と呼吸困難
②痰は少ない
③胸脇苦満

神秘湯(シンピトウ)

 

12)少陽病の頑固な咳痰には柴朴湯(出典:本朝経験方)

★方意

小柴胡湯と半夏厚朴湯の合方。即ち少陽病が遷延して、気と痰が胸脇及び胸膈内に停留し咳・痰・往来寒熱が何時までも治らない者に用いる。

★弁証のポイント

①胸脇苦満、梅核気:梅核気(梅核気)は、神経性咽喉頭部狭窄症ともよばれている。 本人は咽喉に梅の種のようなものがあり、飲み込もうとしてもできないし、吐き出したくても吐き出せない症状。
②胃や胸のつかえ
③咳、痰、嘔気

柴朴湯(サイボクトウ)

 

13)カゼの後、咳痰で眠れない時は竹茹温胆湯(出典:万病回春)

★方意

急性発熱性疾患(傷寒)の余熱がいつまでも退かず、そのために咳や痰が残り、胸苦しくて気が昂ぶり眠れない。そのような場合に用いられる処方

病位は少陽で裏熱虚証

脉は沈で滑

舌は湿潤、微白苔をみる

★弁証のポイント

①夜間の微熱、咳痰が続く:咳が続く
②胸脇苦満、胸苦しい
③不眠

風邪の症状が治まっているにも関わらず、湿った咳や痰が多く不眠が続くタイプに竹筎温胆湯はおすすめです。ほてりや動悸が現れたり咳がだらだらと長引くため、不安や苛立ちなどの精神症状が現れることもあります。竹筎温胆湯は身体に潤いを与えて冷やす麦門冬をはじめ鬱々した気分を晴れやかにする陳皮、香附子、熱による興奮を抑える竹筎、黄連などの生薬で構成され、身体と心の両面を同時にアプローチすることによって症状を改善することを目的としています。

竹茹温胆湯(チクジョウンタントウ)

 

主な参考文献:

弁証図解 漢方の基礎と臨床(高山宏世編著、日本漢方振興会 三考塾)

腹証図解 漢方常用処方解説(高山宏世編著、日本漢方振興会 三考塾)

東西医学の交差点 その源流と現代における九つの診断系(秋葉哲生著、丸善プラネット