産後の肥立ちとは 

「産後の肥立ちが悪い」という言葉を聞いたことがありませんか?「産後の肥立ち」とは出産を終えた女性の体が妊娠前の状態に戻っていくことを意味します。

 

産後6~8週間かけて本来の状態に回復していきますが、この期間を産褥期(さんじょくき)といいます。順調に回復すれば、産後の肥立ちがよいといえますが、産褥期を経ても体調不良が続き、思うように回復しなければ産後の肥立ちが悪いということになります。

 

肥立ちとは肥えて回復していくということですが、産後の肥立ちという言葉がある位、産後の母体は体力の消耗が激しく、栄養が不足している状態であることを示しています。当然体力が落ちれば、抵抗力も落ちます。

 

 

昔は産後の肥立ちが悪くて命を落とす母親も珍しくありませんでした。このように出産はまさに命がけの大仕事でした。そのような背景もあって、昔から産後しばらくの間は横になって安静にし、1ヶ月を目処に通常の生活に戻るという床上げの習慣があります。

 

現代では医学の発達により重篤なケースは少なくなりましたが、それでも産後の体調不良に悩む女性が多いといいます。

 

具体的には産後の肥立ちが悪いとどのようなトラブルが起こるのでしょうか。

 

 

まず出産直後の子宮や産道にはたくさんの傷があるので、傷口から細菌感染し高熱が続くことがあります。これを「産褥熱(さんじょくねつ)」といいます。

 

本来産褥期には、出産直前に胃を圧迫する程広がった子宮が妊娠前の大きさに戻っていきます。子宮が収縮すると共に悪露(おろ)という血液が混じった分泌物が排泄されますが、子宮内の不要なものが体外に出て子宮がきれいに掃除されると考えたらよいでしょう。

 

産後1週間位は赤や赤褐色の悪露が続きますが、次第に色が薄くなり、量も徐々に減っていきます。しかしながら1ヶ月過ぎても赤い悪露が続く場合には子宮の戻りが遅れる「子宮復古不全」が起きている可能性があります。これは子宮内にまだ傷が残っている状態なので放置すると細菌感染の危険性があります。

 

 

他にも母乳が乳腺につまって炎症を起こす「乳腺炎」があります。

 

 

また、精神的な面では「産褥期精神障害」というのがあり、出産後の女性なら誰でもかかる可能性があります。産後2週間以内には治まる一過性の軽いうつ状態を「マタニティーブルー」と呼びますが、出産後に女性ホルモンが急激に変化することによって情緒不安定な状態になることをいいます。

 

それ以降にうつ症状が始まり、数ヶ月から1年近く続く場合を「産後うつ」と呼んでいます。出産による環境の変化、心身の疲れ、育児への不安などのストレスが引き金となって、食欲不振、不眠、気分の落ち込みなどの症状が現れます。マタニティーブルーは自然に治るので心配いりませんが、産後うつの傾向がある場合は長期化する可能性があるので注意が必要です。

 

では、産後の肥立ちによいといわれる漢方薬を見ていきたいと思います。

 

産後の肥立ちの症状と漢方薬

漢方医学の考え方である「気(き)、血(けつ)、水(すい)」の観点から見たときに、出産後の母体は気と血が不足している状態であると考えます。

 

妊娠中にお腹の赤ちゃんにへその緒を通してたくさんの栄養分を送り続け、出産時には大量に出血し、体力を激しく消耗します。したがって出産直後はまさに心身ともに衰弱しきった状態です。さらに授乳が始まれば血液から母乳が作られ消費されていきます。

 

そこで産後の回復を手助けする大きな役目を果たすのに漢方薬が使用されることがあります。代表的なものとして「芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)」があります。この漢方薬には、血と気を補い栄養状態を高めて体力を回復するほか、血の巡りをよくする働きがあるので、子宮を収縮し悪露の排出や乳汁の分泌を促す効果があります。

悪露が長引く場合は血の流れが滞ってお血がたまっている状態と考え、お血を取り除く「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」が用いられることもあります。

 

体力低下や疲労感が強い場合には、気を補う効果が高い「十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)」や「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」が用いられます。

 

またイライラや不安感、不眠などの精神的な症状を軽減するには、「加味逍遥散(かみしょうようさん)」「女神散(にょしんさん)」「抑肝散(よくかんさん)」など気の乱れを整えるものが使用されます。

 

 

産後の肥立ちの時期に漢方薬を飲んでいいかは諸説あります。主治医と相談してみるのが最も良いでしょう。

 

産後の肥立ちで薬や漢方薬を使用したくない方へ

薬を使用せずに改善してさえしまえば、それに越したことはありません。最後に産褥期の過ごし方について少し付け加えます。

 

昔からなるべく目を使わない方がよいという言い伝えがあります。なぜなら目を使うと血液をたくさん消費するからです。漢方医学では目と肝はつながっているといいますが、肝には血を蓄え、血の量を調節する働きがあります。したがって産後に血が不足している状態で目を使えば、肝が疲れ、結果的に産後の回復が遅れることになります。

 

最近はどこでもパソコンや携帯電話を見れる時代になるましたが、産褥期はなるべく見るのを控えて目を休めた方がよいといえます。

 

 

また水を使ったり冷たい風に当たらない方がよいという話もあります。これは体が冷えてしまうからです。体が冷えれば血の流れが悪くなり、産後の回復に悪影響を及ぼすことになります。したがってなるべく体を冷やさないように心がけましょう。

 

そして何よりも大切なことは体をゆっくり休めることですが、そうはいっても今の時代は核家族が多く、母親ひとりに家事と育児の負担が大きくのしかかっているのが現実です。そのような状況であっても、家族の理解と協力を求めたり、最低限の家事にとどめるなど、なるべく体に無理がかからないようにして、この産褥期をうまく乗り切っていきましょう。