※このページでは、甘草を含む漢方薬を飲んでいる方が注意するべき副作用の、偽性アルドステロン症という病気を解説しています。
日常生活で、患者さんが自分の血液検査結果をみたりして気づけるような点を前半に書いています。また、後半には機序や考え方を書いています。

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これは、漢方薬に含まれる「甘草」という生薬による
「偽性アルドステロン症」と言われる病気になった人の例です。

 

この中に、「3点」、偽性アルドステロン症を疑う項目があるのですが、わかりますでしょうか?

 

①○○○○○

②○○○○○

③○○○○○

 

偽性アルドステロン症は、低カリウム血症と高血圧になる病気なので、①カリウムが正常値より低いことと、②血圧が普段より高くなってきた、というのは見て分かりますね。

 

①カリウムの数値が低い

②血圧が高い

③○○○

 

では、③はどうでしょうか?

 

ナトリウム引くクロールの数値が36以上は注意

甘草による偽性アルドステロン症は、後で説明しますが低カリウム血症と代謝性アルカローシスという血液検査異常を起こします。しかし一般のクリニックや病院では、ナトリウム・カリウム・クロールを測定することはあっても、血液ガスを測定する機会は少ないのではないでしょうか。

 

保険診療では、血液ガス検査の検査オーダーするときには、疑われる病名として特別に病名登録しないといけないこともあることから、しばしば避けられているのかもしれません。

 

ですが、代謝性アルカローシスの有無は、実はナトリウムとクロールの濃度で推定できます。

 

ナトリウム-クロール=HCO3+12(アニオンギャップ)

 

という式が成り立つため、ナトリウム-クロール-12をすると、推定のHCO3が測定できます。

 

つまり、ナトリウム引くクロールの値が36よりも大きくなっているときは、代謝性アルカローシスになっている可能性があります。40以上だと、特に大きくなり始めているな、という印象になります。

 

これなら、一般のクリニックでも測定しやすい指標になります。

 

偽性アルドステロン症を疑う3徴候

つまり、

①カリウムの数値が低い

②血圧が高い

③ナトリウム引くクロールの値が36よりだいぶ大きい

というときは、偽性アルドステロン症になっている可能性を考えましょう。

 

 

なぜ、偽性アルドステロン症に注意する必要があるのか?

上に上げた注意点は、クリニックでも簡単にできるように考えておりますが、それでも面倒ではあります。しかし、偽性アルドステロン症があるかどうかを考えることは必須事項です。

心臓が止まる不整脈が怖いから

偽性アルドステロン症では、心臓が止まる不整脈が起こることがあります。低カリウム血症(血液検査のカリウムが低い)という状態は、自覚症状がないまま突然不整脈発作を起こすことがあります。「心室細動」と呼ばれる、死に至る不整脈です。(最近はAEDという救命の機械が全国の施設に普及しておりますが、AEDは心室細動を治療する機器です。)

 

怖いのは、自覚症状がないところです。だるいとか、疲れるといったような症状もなく、皮膚炎など分かりやすいような副作用ではなく、血液検査でしか分かりません。なので、医療者が注意してモニターするのと、服用されている方はカリウムの値などを念のためチェックして確認するダブルチェックが安全だと考えます。

 

甘草自体は良い生薬で、様々な漢方薬に含まれています。ですので使用される機会も多いのですが、偽性アルドステロン症による低カリウム血症という注意点があることを知っておきましょう。

 

 

偽性アルドステロン症の機序

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体の中のカリウムの量は、腎臓で調整されています。沢山カリウムを取りすぎた時には、尿の中のカリウムが増えてきて、体の中から取り除きます。

 

この調整役の一つが、アルドステロンというホルモンです。上の、「アルド」と書いてあるところから白い矢印が出ていますが、アルドステロンが働くと、カリウムが尿としてどんどん体の外に出ていきます。そして、ナトリウムが体内に吸収されるため、高血圧となります。
本来は、カリウムが下がるほどには出ていかないように調整されているのですが、何かの病気や薬の影響で、この調整が上手く機能しなくなります。その一つが、甘草です。

 

アルドステロンと同じ働きをするコルチゾルという物質があるのですが、この濃度が高くなると偽性アルドステロン症となってしまいます。これは、11ヒドロキシステロイド- デヒドロゲナーゼという酵素によってコルチゾルからコルチゾンへの変換されます。甘草に含まれるグリチルリチンは、11ヒドロキシステロイド-デヒドロゲナーゼを抑制してしまいます。つまり、左側の活性のあるコルチゾンが変換されなくなってしまうのです。

 

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甘草は漢方やガム 紙タバコにもふくまれ、気がつかないうちに摂取にており、高血圧・低カリウム血症の原因となることがあります。

 

 

甘草による偽性アルドステロン症診断に役立つ検査

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上の表にあるような流れの診断方法があります。

甘草による偽性アルドステロン症では、アルドステロンと同じ働きをする物質の分解が障害されています。

そのため、レニンもアルドステロンも分泌する必要がなくなるため、抑制されて低値になります。この検査は、採血の前に安静にて30分以上してから検査するので、ハードルはやや高いかもしれません。ですが、調べる必要があるような低カリウム血症の場合は、きちんと総合病院で調べた方が安全ということまで考えると、やはりしっかり調べておくべきです。

 

甘草は、11ヒドロキシステロイド-デヒドロゲナーゼを阻害する働きを持っていて、そのせいで腎臓でアルドステロンのような働きをする物質が増えてしまい、低カリウム血症、高血圧、代謝性アルカローシスになります。甘草を含んだ漢方薬は非常に多岐にわたります。甘草を含む漢方薬を使用しているときには、こういった病気があることを頭に入れておくと、定期的なチェックができます。

 

 

偽性アルドステロン症と甘草の用量の関係

日東医誌 Kampo Med vol.66 N0.3 197-202,2015に興味深いデータが出ています。

 

この研究では、過去に100例以上甘草を用いた製剤を使用した研究をレビューし、甘草の量と偽性アルドステロン症の発生頻度を調べています。

 

この報告によると、
1日1gの人では、1.0%
1日2gの人では、1.7%
1日4gの人では、3.3%
1日6gの人では、11.1%

 

と、用量が上がるほど、偽性アルドステロン症をおこしている、と報告しています。ただ、6g使用している人たちのサンプル数が少ないなど注意するべき点や研究の限界はあるため、そこは注意が必要です。一度読んでみてください。

 

各漢方薬ごとの、甘草(カンゾウ)の含有量

甘草を含んでいるのと、甘草を多く含んでいるのでは意味合いが異なります。各漢方ごとの含有量一覧を記載します。(参考:薬事工業生産動態統計年報)

1 g
安中散,胃苓湯,加味帰脾湯,帰脾湯,芎帰調血飲,九味檳榔湯,荊芥連翹湯,啓脾湯,五積散,酸棗仁湯,滋陰至宝湯,四君子湯,梔子柏皮湯,十味敗毒湯,消風散,参蘇飲,清上防風湯,清暑益気湯,清肺湯,疎経活血湯,竹茹温胆湯,治頭瘡一方,調胃承気湯,釣藤散,当帰飲子,当帰湯,二朮湯,二陳湯,女神散,人参養栄湯,平胃散,六君子湯,竜胆瀉肝湯

 

1.5 g
加味逍遥散,桂芍知母湯,香蘇散,柴陥湯,柴胡清肝湯,滋陰降火湯,四逆散,十全大補湯,潤腸湯,升麻葛根湯,清心蓮子飲,川芎茶調散,大防風湯,治打撲一方,桃核承気湯,防已黄耆湯,補中益気湯,麻黄湯,抑肝散,抑肝散化陳皮半夏,立効散

 

2 g
越婢加朮湯,黄耆建中湯,乙字湯,葛根湯,葛根加朮湯,根湯加川芎辛夷,桂枝加黄耆湯,桂枝葛根湯,桂枝加厚朴杏仁湯,桂枝加芍薬大黄湯,桂枝加芍薬湯,桂枝加竜骨牡蛎湯,桂枝加朮附湯,桂枝加苓朮附湯,桂枝湯,桂麻各半湯,五虎湯,柴胡桂枝乾姜湯,柴胡桂枝湯,柴朴湯,柴苓湯,小建中湯,小柴胡湯,小柴胡湯加桔梗石膏,神秘湯,大黄甘草湯,通導散,当帰建中湯,当帰四逆加呉茱萸生姜湯,麦門冬湯,白虎加人参湯,防風通聖散,麻杏薏甘湯,薏苡仁湯,苓甘姜味辛夏仁湯,苓姜朮甘湯,苓桂朮甘湯

 

2.5 g
半夏瀉心湯

 

3 g
黄岑湯,黄連湯,桔梗湯,芎帰膠艾湯,桂枝人参湯,五淋散,炙甘草湯,小青竜湯,人参湯,排膿散及湯,附子理中湯

 

5 g
甘麦大棗湯,芍薬甘草附子湯

 

6 g
芍薬甘草湯

 

8 g
甘草湯

 

当サイトにおける甘草の解説ページはこちらです。いろいろと、西洋薬や食事の中でも甘草をとる機会が多いことが分かります。