■物忘れの種類

まず、物忘れの種類は、下記のように分かれます。

 

・加齢による物忘れ

 20歳頃をピークに脳の神経細胞は徐々に減少していきます。このため記憶力も年齢に伴って減退していきます。加齢による物忘れは記憶の一部を忘れているだけなので、何かヒントがあれば思い出すことができます。また記憶力の低下を自覚できている状態です。これらの点が後に述べる認知症と異なるところです。

 

・軽度認知機能障害(MCI)

加齢による物忘れと認知症の間、つまり認知症のグレーゾーンの段階です。MCIは認知症ではありませんが、そのまま経過をみていくと半数の人は認知症になると言われています。

 

・認知症

何らかの脳の障害により、記憶や思考、言語などの能力が障害される疾患です。認知症は「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」の大きく2つに分けられます。

「アルツハイマー型認知症」は脳の神経細胞が壊れて減少し、脳が委縮していく疾患です。記憶障害や判断力の低下が起こり、進行すると徘徊や幻覚といった症状が出ることがあります。「脳血管性認知症」は脳梗塞や脳出血などによって脳の神経細胞が壊れてしまったことで起こる認知症です。脳に障害が起きている場所とそうでない場所があるため、例えば物忘れはあっても判断力は低下していないという場合があります。また1日の中でも同じことができたりできなかったりすることがあります。

 

認知症の症状としては、「早期認知症」「中核症状」「周辺症状」の3つの段階があります。

 

早期認知症は、一見すると認知症とは感じられず、自立した社会生活は送れますが、前頭葉の機能低下がみられる段階の認知症のことをさします。この段階で適切な薬物治療や脳のリハビリを行えば、認知症の進行を遅らせることができます。中核症状は、物を覚えて、その記憶を保持し、また思い出すという流れが障害を受けてできなくなる症状です。この段階でも治療をすれば、進行をある程度は抑えることができます。周辺症状は、幻覚や妄想、徘徊、不眠、暴力行為、性格の変化などの症状が現れることをいいます。症状のコントロールが不良ですと、在宅での介護が困難となり、専門の施設に入所せざるを得ない状況となります。

 

 

 

・その他疾患による物忘れ

その他の疾患による物忘れというのは重要で、治療介入(西洋医学)により治療しうる物忘れになります。治る認知症、という考え方から「Treatable dementia(なおりうるにんちしょう)」とされ、内科の教科書では必ず重要視される認知症です。

 脳腫瘍・・・頭蓋内にできた腫瘍が周囲の脳組織と神経を圧迫し、脳の機能に障害を起こします。腫瘍のできた場所によって記憶力や判断力の低下が起こることがあります。

 慢性硬膜下血腫・・・頭部の打撲などにより、脳を包む膜と脳の間に徐々に血の塊(血腫)ができる疾患です。頭痛や記憶力の低下などを引き起こしますが、手術で血腫を取り除くと症状はなくなります。頭をぶつけてから数か月たってから出てくることもあるため、「ぶつけたのは昔だし・・」とは考えず、きっちり調べましょう。

 水頭症・・・脳を保護する髄液が何らかの原因で頭蓋内にたまり、脳が圧迫されたりしている状態です。物忘れなどの記憶障害が症状の一つとして現れることがあります。

 甲状腺機能低下症・・・甲状腺で作られる甲状腺ホルモンは脳細胞の働きにも使われるため、不足する事で物忘れや思考力の低下が起こることがあります。

 うつ病・・・うつ病の症状の一つに、認知機能の低下によって物忘れが多くなるということがあります。

 

 

認知症に使用される漢方薬と、対象となる効果

漢方医学では、認知症自体の治療は困難ですが、周辺症状の改善には有効な場合があります。脳血管性には、釣藤散や黄連解毒湯に効果があります。釣藤散の配合生薬の釣藤鈎には、脳血管を広げて脳循環をよくする作用があるとされます。また、アルツハイマー型には加味温胆湯、当帰芍薬散の有効性の報告があります。また、抑肝散は暴言、興奮、妄想、幻視などの抑制に有効性が多数報告されています。

 

抑肝散・・・アルツハイマー型認知症に有効なことで有名な漢方薬の一つです。神経の高ぶりを抑え、徘徊や攻撃的行動といった認知症の周辺症状を改善する効果があります。イライラや不眠などの「神経の高ぶり」があることが使用の指標となります。もともと虚弱な体質の人向きの漢方薬ですが、体力よりも神経の高ぶりの度合いでその人に合っているかが判断されます。

 

抑肝散加陳皮半夏・・・抑肝散に「陳皮」と「半夏」という胃腸に対する作用をもつ2種類の生薬がプラスされた漢方薬です。抑肝散の適応がある人でより胃腸が弱いタイプの人や、精神症状が高じて胃腸の働きまで悪くなっている人などに向いています。

 

釣藤散・・・脳血管を広げて循環を良くする作用があり、脳血管性認知症の症状を改善するとして近年注目されている漢方薬です。体力中等度で体に冷えがない人に向いています。

 

八味地黄丸・・・アルツハイマー型と脳血管性の混合型の認知症に効果があると言われています。また老化によって足腰が弱り、家にこもりがちになると認知症に対するリスクが高くなります。このような人の体力をつけ、外出などで良い刺激を受けられるようにするなどの目的で使用することもできます。体力がなく、ときに冷えを感じるタイプの人に向いています。のぼせやほてりがある人には、八味地黄丸から体を温める生薬を除いた「六味丸」を使用します。

 

日常生活で注意すること

普段から頭を使っているとボケないと、昔からよく言われているように、頭を使うことが認知症の発症予防になるという研究は多く行われています。日常生活で、料理や旅行、園芸、パソコンなどの趣味活動を積極的に行うことによって、脳の知的機能の低下を抑えることが大切です。また、家族との交流はもちろんのこと、慣れ親しんだ友人や知人とのつながりを大切にしたり、地域の老人会や趣味の会などに積極的に参加して、脳を刺激することは大切です。