十全大補湯の特徴

全身が弱って、「気」も「血(ケツ)」も不足している人に対して、体力と気力を補い、元気をとりもどすのを助ける漢方薬です。血行を促して、冷え症や貧血症状を改善する作用や、滋養強壮作用があります。疲労、衰弱がひどいとき、あるいは病中・病後、手術後などで体力が弱っているときに用いられます。

 

著しく弱っている状態を「十全(完全)に大きく補う」という意味で、十全大補湯という名前が付けられました。

 

中国・宋時代の「和剤局方(ワザイキョクホウ)」に記されています。

 

次のような人に有効です。

・虚弱な体質
・全身が衰弱している
・貧血症状
・皮膚の乾燥
・全身倦怠、疲れやすい

 

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十全大補湯の作用・効果

人参(ニンジン)、蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、甘草(カンゾウ)、黄耆(オウギ)は体力を増進する作用があります。

 

当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)、芍薬(シャクヤク)、地黄(ジオウ)は、血を補い、血行を改善させる作用があります。桂皮(ケイヒ)は体を温め、気をめぐらせる作用があります。

 

癌治療に関連する漢方薬としての十全大補湯の効果

最近では、がん治療領域においても十全大補湯が使用されるようになってきています。具体的には、手術後の体力回復や、抗がん剤や放射線治療の副作用による全身倦怠感(体のだるさ)の軽減にも活用されており、西洋医学の領域の医学雑誌にも、この薬剤が有効性を示したという報告が多数みられています。

⇒癌(がん)の時に使用される漢方薬

 

十全大補湯のアトピーに対する効果

十全大補湯は、アトピー性皮膚炎に用いられることがあります。名古屋市大で比較した、アトピー性皮膚炎の漢方薬による改善効果の比較(ラットでの)では、十全大補湯が良い成績であったとされます。ただし、証(具体的には舌淡で元気がなく低血圧)でない人には効果はなく、また保険上は消風散と補中益気湯以外の漢方薬はアトピー性皮膚炎の適応はありません。

⇒アトピー性皮膚炎の漢方薬

 

十全大補湯の慢性中耳炎に対する効果

小児反復性中耳炎に対する十全大補湯の効果に関する多施設共同比較試験という比較試験が実施され、一度中耳炎になった後、耐性菌などの影響により中耳炎発症を繰り返す、いわゆる小児反復性中耳炎に対して十全大補湯の有効性の検証がありました。

50人対50人ずつのめ6カ月~3歳以下の子供を対象に、十全大補湯を使った人・使っていない人で分け、体重あたり0.2~0.4gの十全大補湯を使用しています。Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.35 No.2 2011.

 

この結果

中耳炎に対しての十全大補湯の効果
・中耳炎になる頻度が低下した
・鼻かぜになる頻度が低下した
・抗生物質の使用量が減った

慢性反復性中耳炎の患者における十全大補湯の効果
・頻繁に繰り返す小児に対して
・2歳児未満に対して
・集団保育園児に対して
・家庭内受動喫煙がある子に対して

という、慢性中耳炎のハイリスク児といわれる子達で、より高い有効性があった

という報告がされています。(2012年 吉崎らにより報告)

 

そのため、現在では、小児急性中耳炎診療ガイドラインにおいて、小児反復性中耳炎の漢方薬として認識され、推奨Bに入り推奨される漢方薬となり、比較試験を行った科学的根拠があるものとされています。

 

 

十全大補湯の効果の報告(肝炎・末梢循環)

慢性肝炎や肝硬変の治療でも用いられます。口腔扁平苔癬に十全大補湯の報告(漢方医学 Vol.31 No.3 2007 ―107)もあります。末梢循環の改善作用・潰瘍の上皮化作用、強皮症などの指端潰瘍や褥瘡、乳幼児の肛門周囲膿瘍、潰瘍性大腸炎にも使用されることがあります。線維筋痛症に対する報告(Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.33 No.3 2009)もあります。

 

十全大補湯の成分・効能

十全大補湯は、下記の10種類の生薬からなります。

 

・当帰(トウキ):セリ科のトウキの根を湯通ししてから乾燥させたもの。薬効は、「血(ケツ)」の不足を補い、巡りを良くします。

・川芎(センキュウ):セリ科のセンキュウの根茎を湯通ししてから乾燥させたもの。薬効は、「血(ケツ)」と「気」のめぐりをよくし、体のバランスを整える作用があります。さらに鎮静作用、鎮痛作用、補血作用、強壮作用があります。

・芍薬(シャクヤク):ボタン科のシャクヤクの根を乾燥させたもの。薬効は、「血(ケツ)」のめぐりをよくし、血行促進作用、筋肉のけいれんを抑える作用、鎮痛作用があります。

・地黄(ジオウ):ゴマノハグサ科のアカヤジオウの根を乾燥させたもの。薬効は、「血(ケツ)」の不足を補い、「腎」の働きを活性化する作用があります。

・蒼朮(ソウジュツ)または白朮(ビャクジュツ):キク科のホソバオケラ(白朮はキク科のオケラ)の根を乾燥させたもの。薬効は、「水滞」を改善し体内の水分代謝を正常にする作用があります。さらに、消化機能を高める作用もあります。

・茯苓(ブクリョウ):サルノコシカケ科のマツホドの菌核を乾燥させたもの。薬効は、利水作用があり、余分な水を排泄させます。

・人参(ニンジン):ウコギ科のオタネニンジンの根をそのまま、または湯通しして乾燥させたもの。薬効は、消化機能を高め、「気」の生成をますことにより、体力を回復させる作用があります。

・桂皮(ケイヒ):クスノキ科のニッケイの樹皮または枝を乾燥させたもの。薬効は、「気」のめぐりを整え、発汗によって体表の毒を除く作用があります。また、解熱、鎮静、血行促進、抗血栓作用があります。

・黄耆(オウギ):マメ科のキバナオウギ、ナイモウオウギなどの根を乾燥させたもの。薬効は滋養強壮作用があり、体内に滞った「水(スイ)」を除く作用があります。

・甘草(カンゾウ):マメ科のカンゾウの根や根茎を乾燥させたもの。薬効は、疼痛緩和の他、緊張を緩める働きがあります。

 

 十全大補湯の副作用

配合生薬の地黄により、胃腸が虚弱な人が用いると、食欲不振、下痢などの胃腸障害が起こることがあります。

 

配合生薬の人参により、のぼせ、湿疹、蕁麻疹、皮膚炎の悪化などの症状があらわれる可能性があります。

 

また、配合生薬の甘草(主な成分はグリチルリチン酸)の大量服用により、むくみが出たり、血圧が上る「偽性アルドステロン症」と呼ばれる症状がでる可能性があります。甘草が含まれている他の漢方薬や、グリチルリチン酸を長期で服用する際は注意が必要です。

⇒甘草の含有量と偽性アルドステロン症

 

十全大補湯の服用方法

ツムラ十全大補湯エキス顆粒によると、通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口服用するとされています。年齢、体重、症状により適宜増減してください。

 

基本的に漢方エキス製剤は、お湯に溶かしてから服用すると良い効果が期待されます。